お百笑さん 誕生ものがたり

両親が営んでいた農業を、若いころは好きではありませんでした。 しかし子育て中の30代、段々と空気がきれい、水がきれい、素晴らしい環境で育つ農産物の安全性を目の当たりにしました。通り抜けの出来ない土地は、手つかずの自然でとても「貴重」であり、自然がそのまま残っている事は大きな財産だと気づきました。

この梅園は、かつて一度は両親が土地を手放したこともありましたが、それを買戻して杉を植えました。その後、ダム工事で山が削られたのを機に、南高梅を500本植えました。約30年前のことです。両親は梅の栽培に関しては全くの素人だったため、10年の歳月をかけて土づくり・剪定・収穫を繰り返し、やっと認めてもらえる梅を生産できるようになりました。しかし、佐賀県には5月中旬から収穫される梅の品種が多く、6月中旬に収穫を迎える南高梅は全く売れませんでした。毎年、両親が並々ならぬ努力を重ねて、やっと収穫された梅が売れない! そんな姿を見たとき、私は一念発起し、「こんなにおいしい梅なんだから、一粒残さず皆さんの食卓に届けよう。」と、梅の加工に挑戦しました。

まず取り掛かったのは、「梅ジャム」と「梅干し」でした。南高梅の特徴も知らず、梅干しの漬け方も知りませんでした。レシピ通りに漬けても納得のいく出来にはなりませんでした。梅干しは漬けてから1年以上熟成させないと美味しいものとはなりませんし、収穫時期で全く違う味になります。なかなか納得できる味にはならず、数年間は漬けては樽ごと山に処分していました。梅ジャムも収穫時期が大きな壁となりうまくいきませんでした。数年間、両親の梅の栽培を手伝いながら栽培方法や収穫時期を検討し、収穫を迎えると毎年加工に挑戦し続けました。その結果、数年後にやっと納得できる「梅干し」と「梅ジャム」が完成し、2004年、販売を開始しました。

 

加工販売より1年早い2003年には、「10年後には高齢化し栽培と出荷作業が難しくなる。」と、両親を説得し、南高梅狩りと梅しごと教室を体験できる『観光梅園』をオープンさせました。観光梅園の初年度は、1ヶ月の開園期間中に3~4組のお客様でした。あまりの少なさに両親と大喧嘩をしたものでした。そして、売れ残った梅は仕方なく前年に起業した加工業へと回しました。

それでも年を追うごとにお客様も増え、加工品も品数が増えてきました。本腰を入れるため、2011年、個人事業を法人化して「株式会社お百笑さん」を設立しました。しかし両親は観光梅園10周年を迎えることなくこの世を去り、栽培・加工・販売のすべてを担うことになりました。社名の「お百笑さん」は、亡き母の「百姓は楽しい、最期まで楽しく百姓がしたい。」という想いを、そのままに名付けました。

そして毎年、他の農家さんに真似できない栽培方法と加工方法に励み、それを「梅しごと教室」でおひとりおひとりにお伝えし、皆さんには満足のいく梅しごととして喜んでいただけるようになりました。「ひとりの満足」は次々に口コミで輪を広げ、今では開催期間中に600人を超える方々に来園いただくまでになり、毎年増え続けております。今後も両親が残してくれた自然と農地と食の中で生きることの素晴らしさを、この地でお伝えできるように精進してまいります。

2016年6月に開催する「梅しごと教室」は、第14回目を迎えます。これもひとえに皆様のおかげと感謝しております。段々と会場も手狭になり、お客様にもご迷惑をお掛け致しておりますが、少しずつ体制を整えてまいりますので、宜しくお願い申し上げます。

2016年5月 お百笑さん 大古場美由紀